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ホルムズ海峡封鎖とは
基本的に機雷を敷設することをほのめかしている以上、イランと友好的・宥和的な国でも保険会社が保険料を釣り上げたり対象外にするから船舶会社が船出せなくなるし、機雷掃討作戦が実施されようがイランに宥和的な態度を取ろうが、ホルムズ海峡はどこの国も基本的にはほぼ通れないとは思います。
ホルムズ海峡封鎖って、物理的に封鎖されるというより、物理的に封鎖されてるリスクがあるから保険料高騰、船舶会社の拒否とかで商船が通れなくなるものなので選択的に通すのって無理です。通す許可イランから出ても、封鎖で帰れなくなった人が戻れるからそういう意味はあるけどそれ以上は望みにくいものです。
イランが”友好国、中立国はホルムズ海峡通す”って言ってるのは偏にレトリックで、過去のタンカー戦争でも物理的封鎖完成に関わらず海域の航行リスクでの民間船舶・保険会社の回避から封鎖は完成したので、通せても避難のため等特別の対応で選択的に何処かの国の商船を恒常的に通すって実務的に無理です。
護衛艦目線だとあの狭いホルムズ海峡で最大の脅威は飽和攻撃でCIWS潜れる対艦ミサイルだろうけど、ホルムズ海峡封鎖って”不確実性による保険・船舶会社のリスク回避による実質的なシーレーンの麻痺”によるから、結局その意味では機雷が一番脅威と思われます。
イランの海峡封鎖の負担
イランがホルムズ海峡封鎖で一番困るのは輸出でなくて輸入だから石油輸出量の維持だけをもって一人勝ちとは言えないです。そもそもホルムズ海峡封鎖で交通麻痺するのは保険、船舶会社の回避行動のせいなので、輸出量に関してはイランの影の船団はその制約受けにくいけど、 原価率自体は絶対高くつきます(保険料高騰と中国の割引要求激化)。
イランの産業は原油頼りでなくて製造業もウェイトが大きくて医療品輸入量も多く、食料自給率も低いから、結局補給路絶たれるから相当打撃です 。
権力構造
革命防衛隊は政府傘下の組織ではないというか、ヒエラルキー頂点の最高指導者の傘下に革命防衛隊と大統領制の政府があって(最高指導者に近い革命防衛隊のほうが当然権限は上位)、政府が平時中心に執行機関としてある程度裁量的に動いてるくらいの感じです 。権威主義国家では結構ある類型ですが、政府はせいぜい執行機関で、軍や王権とか神権とか党が主権持っているみたいな感じです。
イランの権力構造だと、会社で言うとアラグチ外相とか事業部長くらいの権限しかないから、会社全体の方針を左右する権限もないです。大統領もそんなもんでせいぜいエリアマネージャーです。
政府と最高指導者&革命防衛隊の意見がたまに違うのは、目的最大化のインセンティブ構造が少し違うのもあるけど、中国、パキスタンとか、政府外交筋は上位権力に支配されつつ相対的に穏健に振る舞って交渉資源にするの権威主義国家である戦略でもあります。パキスタンのそれで米国はずっと翻弄されました 。「アラグチ外相は比較的穏健だし、ここで政府筋と妥協しないと革命防衛隊とか強硬派が勝つかもしれない」みたいに思っている人は多いのかもしれないものの、そんなふうに錯覚させるのが制度の実利の一つで、そもそも政府は革命防衛隊と競合できるほど権限がない権力構造です。大統領制自体もそうだけど、形式的に民主的プロセスを採用したり体制の多様性を見せることが外交資源(交渉余地の創出、外形的なアカウンタビリティや圧力分散、シグナリングの柔軟化)になっていて、意思決定の中枢は一枚岩ではあります。
政府に比較的穏健な人材を置くのはイランの常套手段で、ローハニもザリーフもそうです。それで重要な局面で話せる相手を西側に提供する。合意が必要な時は穏健な顔で進めて破綻させたい時は”強硬派に阻まれた”で処理。穏健派の存在が制裁を続けると強硬派が勝つという西側の自制心を引き出す。 穏健派を政府においても政府に大して権限がないから簡単に覆せるので、上層部には管理するリスクがないです。
周辺諸国の事情
中東の周辺諸国も本音ではイランを適度に米・イスラエルに弱らせてほしいのは本当とは思うけど、ただホルムズとかシーレーン不安定化はサウジ・UAE・エジプトとかには致命的で、またイランが極端に内政不安定化すると多数の移民が流入したり越境不安定化するから、トルコとかパキスタンとか特にそれを警戒してて、今回の紛争の長期化や激化まで統一主体として望んでる国はあまりなさそうではあります。 エジプトとかUAEとか湾岸諸国は観光収入も規模が大きくてそれと水運や金融の両輪での平時前提の経済モデルに依存してるから、安全なイメージに傷がつくだけで相当打撃だから、イランもUAEを突っついて米・イスラエルに泣き言言わせたいわけです。
湾岸諸国へのイランの攻撃はカタールにちょっかい出して原油ルート叩いてパニック起こしたいのと、中東諸国もイランに関しては(トルコやカタールも含めて)シリアとイラク、レバノンの一部勢力を除けば、特に世論ではイスラエルは大嫌いだけど、現実的にはイランはもっと危険だから、どっちかが勝ちすぎずに適度に潰しあってほしいけど、激化したり巻き込んだりして欲しくはない国ばかりだから、イランも道連れに攻撃するのが交渉カードになるわけです。
周辺国にとってイランが最大の脅威である程度弱ってほしいのはどこもそうですが、紛争の激化や延焼、地域やイランの不安定化にもどこも警戒的です。UAEやバーレーンだけに限らず、湾岸諸国はイランの代理戦争の封じ込めと体制不安定化(それでの難民流入で治安問題化、シリアみたいな少数派自治区乱立で越境的なテロネットワーク成立への懸念)への警戒でイスラエルと普通に水面下で情報共有しています。湾岸諸国の反イスラエルは、一寸前の韓国の対日言説みたいな感じで地域内や国内政治での正当性の資源に係る象徴的対立で、実際は安全保障上の利益が共通するところが大きいです 。
表現の自由?
イランは言論の自由度低いけどネット規制は中国と違って抜け穴だらけ(統制コストと規制徹底による経済的影響の考慮が要因)で、リスク高いけどVPNである程度は海外SNSなどにアクセス、発信できます。だからイランへの攻撃を喜ぶ現地の動画はフェイクのもあるけど、本物らしいのもあったようです。
ロシアとかも中国ほど徹底してないけど、それでもイランよりはネット規制徹底されてるし罰則も中国より重いくらいです。イランはVPN使ってるだけではそこまでリスクないけど、ロシアでは結構リスクです。
戦争経済?
今は戦争は軍需産業もあまり儲からないからないです。供給制約強くて量産できずに平時に用いる高額の電子戦闘機とかイージス艦とかが主な利益で別に戦闘で破壊されても裁量的に量産できるようなものでないし、需要が増えるのは砲弾とかドローンとか安価なものばかり でこれらは非常時の最大顧客の政府との価格交渉に弱くて戦争に伴う原料費、加工費増で原価率が上がるから需要増えても利益になりにくいです。
戦争で儲かりうるとしたら供給ショックの影響が大きいエネルギーとか資源を扱う産業、物流産業、保険業、サイバーセキュリティ業とかです 。ロシアの戦時成長は政府支出による需要刺激と稼働率上昇で説明でき、それ自体は平時でも可能で、戦争自体が価値を生んでるのではありません。ただ戦時には政治的制度的制約の緩和、資源の強制配分、需要の確実性、輸入制約とかで同規模の政策よりも強く速く統計上はGDPに反映されやすいだけです。
米国のイランへの攻撃は、軍産複合体のインセンティブという陰謀論でなく、中東の安全保障でイニシアティブをとっているイスラエル主導で米国が追従した感じに近いでしょう。
パフレヴィ―朝よりまし?
パフレヴィー朝も腐敗してたけど、革命イラン政権もサヴァクがやってた権威主義を神権のもとでさらに徹底してるだけです。イランはサウジとかほどではないけどもレント国家だから、インフラの段階的拡充は王政期からの中東地域内で共通するトレンドであって、別に革命政府の功績ではないです。
医療福祉、識字率はサウジ、UAE、カタールのほうが進んでるけど人口規模が違いすぎるし、エジプトは規模は近いけどイランほどのレントないから、周辺国との比較での政策評価は困難だけど、規模が近くてほぼ資源レントなしのトルコとかは10年代の制裁前からイランよりインフラ成長の水準高いし、 特別イランのガバナンスが良かったわけではありません。農村への分配にしても貧困層の生殺与奪の権限を国家が握って忠誠をコントロールするのが主眼だし、中国や旧ソ連、ジンバブエとかもやったようなことです 。
ロシアの動き
ロシアとイスラエルの妥協的協調はシリアにおけるイランとの利益対立という利害一致が主因で、イスラエルのロシア系人口はごく副次的でしょう。本当に後者が理由ならウクライナを攻撃するわけがありません 。
ロシアとイランは一応は同盟関係に近いけど、中東戦略で利益が相当対立してるから、イスラエルにイランを適当に弱らせて欲しくもあるでしょう。権威主義的なイデオロギー国家って北朝鮮もそうだけど友好的な国からしても連携しにくいから、関係を持て余しやすいです。
イランとロシアの対立はエネルギー市場での競合は主因ではなくてあくまで中東政策が主だとは思います。石油みたいなエネルギー財は需要が大きすぎて、顧客獲得のゼロサムゲームは起こりにくいし、供給インフラ依存で市場が地理的に分断されているため。
イランの現実は内部から変えられる?
”イランは外圧ではなく、イラン自身の手で民主化するべき”ってのも理想を言えばそうですが現実には困難です。パフレヴィー朝は英米が背景にいるからカーターの人権外交の枷で市民を途中で殺せなくなったから革命が成立したけど、今のイランは平気で神や革命防衛のための試練として何万人でも体制維持のために殺せるし、体制側にも改革、自由主義勢力もなしでは、基本的に非武装の現地勢力が自由化を達成する経路がありません 。革命体制のイデオロギー国家で内圧で体制転換した例や経路はなく、北朝鮮やキューバ、中国もそれと近いです。
スペイン、韓国、台湾とか見ても権威主義から民主化は1.体制側に改革・進歩的勢力がいる。2.国軍に自由化や権威的体制と非協調的に転ぶインセンティブがある 3.西欧と協調的で自由化や民主化圧が強い、とかの条件がそろって、エリート主導の民主化が起こらないと、内部からの変革は無理です。イラン革命が成功したのも2.3で国軍が強権的に振る舞えなくなったのが大きいです 。
個人的にトランプのベネズエラやイランへの攻撃は国際法違反以上に、人道的介入の意思や方策が客観的に見て取れずに現地の抑圧はそのままに混乱を助長するだけなのが容易に予想できるから反対ですが、ただ現実的にどっちの国も内圧で変革するのは無理があるとは思います。
ネパールみたいに統治能力が極端に低い国だと事情が違って古典的な革命が成立しうるけど、それで前よりある程度マシになったのはネパールくらいで、その後統治機能崩壊→内戦になるのが自然です。 ネパールも1.革命側の武装勢力が一枚岩2.インドなど周辺国家が内政の不安定化に懸念を持って調停にはたらきかける3.国軍の体系が安定的かつ穏健で、かつ周辺国や革命勢力にも協調的・融和的、とか通常想定しにくい条件が重なった事が大きいです。



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