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プロップの物語論の真意。そしてレヴィ=ストロースからボイヤーへいたる物語一般のパターン。

芸術,美学
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プロップの民話分析

 プロップの物語論というのは、ロシアの民俗学者 ウラジーミル=プロップ が提示した、物語の構造を形式的に分析する理論です。特に有名なのは著書『昔話の形態学 』です。

 ここでプロップはロシアの魔法昔話を大量に分析し、筋立てをバラバラに分解します。そして登場人物そのものではなく「その人物が物語で果たす機能」に注目すべきだと考えました。

 物語の中で繰り返し現れる「行動の役割」を「機能」と呼び、全部で 31種類 に整理します。例えば”欠如(主人公に何かが足りない/奪われる)””禁止(主人公に何かをしてはいけないと告げられる)””禁止の破り””悪役との戦い””欠如の解消(求めていたものが手に入る)”などです。

 またプロップは人物を「キャラ」ではなく「機能的な役割」で区分します。”悪役(ヴィラン)””贈与者(試練や魔法の道具を与える存在)””助手””王女(あるいは求められる人物/もの)とその父””送り手(使命を与える)””主人公(ヒーロー)””偽主人公”などです。

 プロップの方法は、文学研究に構造主義的な影響を与えました。物語を「キャラクターの個性」や「文化的背景」ではなく、形式的な構造の組み合わせとして捉えるアプローチです。

プロップの特徴

 プロップが対象としたのは ロシアの「魔法昔話」 という特定のジャンルです。しかも実際には科学的にジャンルの形式を記述することが目的で、神話や近代小説までを含む一般理論を意図していたわけではありません。方法としては民話の形態学的(モルフォロジー的)分析に倣い、要素を分解して再構築する手法をとったのでした。

 その後、プロップの研究を「物語一般の構造分析」として拡張したのは、主に構造主義の批評家・記号論者です。彼らはプロップの「機能」「役割」を出発点にして、神話・小説・映画などに適用していったのでした。しかしプロップ自身は、あくまで 民俗学的・民族誌的な限定的研究 として取り組んでいました。

レヴィストロースの構造主義

 レヴィストロースの構造主義は、ソシュールが言葉の意味は「他との関係」によって成立するとしたのを継承します。レヴィ=ストロースは文化現象(神話・親族・習慣)も同じで、「表層の多様性」を貫く「背後の構造(関係のパターン)」があるはずだ、と考えました。その構造主義の狙いは、文化の「文法」を記述することです。

 レヴィ=ストロースの神話論は、神話を「自然/文化」「生/死」「生の肉/火を通した肉」といった二項対立の体系として読みます。神話の物語的な展開よりも、背後にある「思考の構造」を重視するのです。

 またひとつひとつの神話を読むというよりは、膨大な神話を並べ、共通のモティーフや対立構造を「マトリックス的」に整理します。そこで見える「変形関係」から、神話思考の普遍構造を探ろうとしたのでした。

レヴィストロースの課題

 しかし分析の単位をどこで区切るかが恣意的になりやすいし、二項対立の読み取りが研究者の直感に依存していることが多いです。

 したがって「再現可能性が低い」ので、根拠が薄いと批判されがちです。

 レヴィストロースは、”人間に生得的な構造があって、それに由来して神話に特定のパターンが存在する”と考えたと言えますが、その直感を継承するのがパスカル=ボイヤーです。

パスカル=ボイヤーの分析

 宗教的観念(神話や精霊)は、人間がもともと持っている認知モジュール(心の自然な仕組み)から派生するとします。たとえば心の理論で、これは他者に意図や感情を推測する能力です。これが拡張されて「木にも意志がある」「神が怒っている」と考えやすくなるとします。

 目的論的推論能力から、自然現象に背後のエージェントを見出すことが起こるとします。

 人間の認知は、「木」「人間」「動物」といったカテゴリーに基づいて世界を整理します。人間 は「死ぬ」「話す」「食べる」、木 は「動かない」「死ぬが、話さない」など。

 ボイヤーが言うのは神は「人間カテゴリー」に属するが死なないというかたちで期待違反をしていたり、精霊 は「動物カテゴリー」に属するが透明で視覚的に知覚できるはずなのにできなかったり、カテゴリーに基本的に適合しているが、一部の性質だけが違反しているもののことです。

 違反が多すぎると理解不能で完全に新しいルールを構築しなければなりません。違反が少なすぎると平凡で記憶に残らないです。

 これは心理学でいう「期待違反理論」「スキーマ違反」と近く、スキーマの大枠を保ちつつ部分的に裏切る方が記憶定着率が高いとします。

 神話や宗教的存在は日常の推論にほぼ従うが、少しだけ逸脱しているため記憶されやすいとします。このちょっとだけ違うという性質が、人間の記憶と想像力に強烈に残り、伝搬しやすいのです。

 宗教や神話は「社会統合のために発明された」のではなく、認知的に広まりやすい観念が結果的に社会機能を持ったとします。たとえば「監視する神」という観念は、偶然広がりやすい認知パターンであり、その副作用として規範維持に寄与したとします。

 神話や宗教は「適応そのもの」ではなく、心の設計(進化的に獲得された認知モジュール)の副産物とします。ボイヤーは人間の脳の仕組みを考えれば、どんな社会でも神話や宗教のようなものが生まれると考えます。

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