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エスノメソドロジーとは何か

社会学
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エスノメソドロジーとは

 エスノメソドロジーとは、ハロルド・ガーフィンケルによって提唱された社会学の方法論であり、人々が日常生活の中でどのように社会的秩序を生成し維持しているかを、当事者の実践に即して明らかにしようとする立場です。

 社会秩序を外部から説明するのではなく、人々自身が会話や行為を通じて秩序を「作り出している」ことに注目し、常識的推論や文脈依存的な意味理解(指示性)を分析対象とします。

 ガーフィンケルは日常的前提を意図的に破る「ブリーチング実験」によって、社会秩序が暗黙の了解の上に成り立っていることを示しました。この方法論は、日常会話の詳細な構造を分析する会話分析へと発展し、社会を制度や構造からではなく、具体的相互行為の内部から理解しようとする視座を提示したのでした。

パーソンズの秩序問題

 エスノメソドロジーは、もともとハロルド=ガーフィンケルがパーソンズ社会学、とりわけその「社会的秩序はいかにして維持されるのか」という秩序問題への批判的応答として生まれた方法論です。

 パーソンズは社会秩序を、共有された価値・規範体系への内面化(社会化)によって説明し、個人の行為はその体系に従属すると考えました。これに対してガーフィンケルは、そうした上から与えられた秩序や制度的規範による統制ではなく、むしろ人々が日常の相互行為のなかで常に秩序を作り出し、調整し、維持している点に注目したのでした。

 つまりパーソンズが社会秩序をあらかじめ存在する構造的、規範的枠組みによって説明したのに対し、ガーフィンケルはその秩序が成員の実践的行為のなかで生成されるプロセスを明らかにしようとしたのでした。

 エスノメソドロジーは、パーソンズ的秩序理論の外在的・規範的秩序観から、内在的・生成的秩序観への転換を示す試みとして位置づけられます。

質的研究?

 エスノメソドロジーは質的研究と同様に、実際の社会的状況における人々の行為や語りを重視するものの、その目的と立場は根本的に異なります。

 質的研究がしばしば経験的データから意味や構造を解釈し、研究者の理論枠組みを通じて社会現象を記述・説明しようとするのに対し、エスノメソドロジーは研究者による外在的解釈を避け、当事者自身が社会的秩序を成り立たせるために用いている実践的手続きを明らかにしようとします。

 質的研究が人々の行為をどう理解するかを問うのに対して、エスノメソドロジーは人々がどのように理解という行為を構成しているかを問う点で異なり、社会秩序を生成的・相互行為的な過程として分析することを目的とします。

 質的研究では、データからの解釈が目的といえますが、エスノメソドロジーでは社会秩序の生成的プロセス自体の記述に方法論の焦点が置かれます。

メソッドの類型

 もっとも代表的な方法のひとつは、会話分析です。これはハーヴェイ=サックス、ゲイル=ジェファーソン、エマニュエル=シェグロフらによって展開された手法で、自然な会話を逐語的に記録し、発話の順序、間合い、応答構造などを精密に分析します。発話交替や修復の手続きを詳細に検討することで、人々が日常的な対話を通じてどのように相互理解を達成し、社会的秩序を生成しているかを示すことができます。

 もう一つ有名な方法が、ガーフィンケル自身によるブリーチング実験です。これは、日常の暗黙のルールを意図的に破ることで、他者の反応を観察し、通常は意識されない社会秩序の前提を可視化する試みです。家族に対して「あなたは誰ですか」と尋ねたり、店員に「お釣りをなぜ渡すのですか」と質問したりすることで、社会的常識がどのように維持されているかを明らかにします。

 また、ガーフィンケルが初期から用いた概念として、「ドキュメンタリー的解釈法」があります。これは、人々が断片的な出来事を背景的な文脈や一般化された意味を参照して理解するという実践的解釈の方法そのものを分析するものです。学生が試験採点を「正当なもの」と理解する過程や、陪審員が証言を「信頼できる」とみなす過程を分析することで、社会的意味づけの構造を明らかにします。

 さらに、フィールドワークを通じて行為者の秩序構築の方法を記述する「エスノメソドロジー的民族誌」も重要な手法です。ここでは研究者は自らの理論的枠組みをできる限り排し、現場の行為者が秩序をどのように構築しているかを観察し、その実践を詳細に描写します。警察官の現場判断、医療チームの協働、法廷での証言手続きなどが典型的な研究対象です。

 ルーシー=サッチマンの研究に代表されるように、職場での文書やマニュアル、情報システムの使用を分析する「ワークプレイス・スタディーズ」も、エスノメソドロジーの方法論的展開の一つです。ここでは、文書やシステムがどのように実際の行為の中で意味づけられ、社会的現実を構成しているかが焦点となります。

 エスノメソドロジーの方法論は、外部理論の導入を極力避け、行為者自身の実践的手続きを記述的に明らかにする点に特徴があります。社会を客観的に存在する秩序として捉えるのではなく、相互行為の中で絶えず再生産される秩序として理解しようとします。

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