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ナンシー=フレイザーのマルクス主義フェミニズム

倫理,哲学
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フレイザーの初期

ナンシー=フレイザーの研究の中心は、社会的不正義の構造を分析する枠組みの構築にあり、とくに「経済的不平等(再分配)」と「文化的差別・尊厳の否定(承認)」の二つの次元を統合的に捉えるモデルです。

 フレイザーの初期理論では、社会正義の問題を分析するために”再分配”と”承認”という二つの軸を提示しました。再分配は階級格差や資本集中、労働市場での構造的不利など経済的・制度的な不平等を指し、承認は人種差別、ジェンダー規範、LGBTQ+差別といった文化的・象徴的な差別や侮蔑を指します。

初期の誤解

 この二軸モデルは当初、分析上の区別として提示されたものであり、実際の社会問題に応じてどちらの軸を重視するかを診断するためのツールでした。しかし、読者や政治運動の中で誤読され、”再分配か承認か”という二者択一のモデルとして受け取られることが多くなりました。この誤解により、承認と分配の軸が互いに切り離されたかのように捉えられ、単線的な政治路線の議論が助長されてしまいました。

 フレイザー自身も後に、この二軸の切り分けが現実社会や政治において問題を生むことを認めるようになりました。特に、承認を分離して独立の政治課題として扱うことが、結果的に新自由主義的フェミニズムの台頭を助長したとしています。

 新自由主義的フェミニズムとは、ジェンダー平等や多様性の象徴的表象を掲げながら、資本主義の経済構造上の不平等や階級格差を覆い隠すようなフェミニズムの形態です。具体的には、女性の管理職やリーダーの成功物語が女性の権利進展として喧伝される一方で、低賃金労働やケア労働に従事する女性の経済的搾取は可視化されず、社会構造の問題が軽視される、といった現象です。

 承認軸の強調が左派のエネルギーを分断し、文化闘争に集中するあまり経済闘争が後退した結果、資本主義の拡張を許容してしまったという指摘もあります。

統合的モデルの確認

 この反省を踏まえ、フレイザーは理論をさらに発展させ、三次元モデルを提示しました。「再分配(経済)」「承認(文化)」「代表(政治)」の三つの次元で不正義を分析する枠組みです。ここで”代表”は、誰が政治的に意見を述べる主体としてカウントされるか、どの単位で政治参加が保障されるかという問題を扱います。

 三次元モデルによって、社会的不正義は単純に経済か文化かのいずれかで語れるものではなく、経済・文化・政治の絡み合いとして理解されるべきであることが示されました。また、これにより、グローバル化や移民、気候危機など国境を越える問題も制度的に分析可能になります。

 さらに、フレイザーはケア労働や社会再生産の問題にも注目しました。現代資本主義は、家事・育児・介護などの再生産労働を過小評価し、社会全体の維持に不可欠なケアを十分に支援しない構造を持つため、社会はケア危機に陥っているとします。この視点は、ジェンダー・階級・移民労働の問題と不可分であり、経済的不平等と文化的差別を同時に分析することの重要性をさらに強調しています。

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